本日、2人の著名な先生の講演会があり拝聴させていただいた。
1人は、UCLA歯学部ワイントロープセンターの小川
隆広先生。も
う一人は石川県金沢市でご開業の船登彰芳先生である。
小川先生からは、インプラント治療のエビデンスは実は
少ないという
話があった。学術論文を全てエビデンスと考える風潮への戒めを込め、その内容を吟味して
再考察するという「Critical
Review」が必要であるとの事であった。その批判的再考察をしてみると、数多あるインプラントの学術論文のほとんどは、エビデンスにならないとの事で
あった。ほとんど信憑性が無いと聞くと、多少不安になる内容であったが、小川先生の仰る、研究プロトコールのストラクチャの大切さは、私も米国留学時に痛
感した。
そもそもアメリカ人は日常生活から批判的である。あい
まいさを嫌
い、白黒物事をはっきりさせないと気がすまない風潮がある。そしてその違いをきちっと見極
め、それを認め合うのがお国柄ではないだろうか。決して批判的という単語が持つマイナスイメージではなく、建設的な批判であり、その物事の考え方は、学問
的な推察や考察に非常に役に立つものだと思った。
私の留学の前半1年は、研究プロトコール書きで終わっ
た。200
ページもにも及ぶ研究計画書を書きながら、日本語がいかにあいまいでかつ文学的かということを悟った。
研究論文を日本語で書く際にも、この経験は生きている
ように思え
る。私は大学院時代、よく指導教授(当時は助教授)から「お前の文はお前しか分からない。
科学論文は初めて読んだ人間でも、分かるように書かないと意味が無い。」と叱られたが、当時はよく真意は分からなかった。しかし、英語でプロトコールを書
くと、その真意ははっきり分かった。
英語と日本語の決定的な違いは、主語、述語、目的
語・・・これらの
明確さにあると思う。日本語は主語を省くことが多い。
「愛しているよ」といえば、「私はあなたを愛してい
る」という意味
に決まっているので、日本語では「愛しているよ」しか言わない。しかし英語ではご存知「I love you」だ。決して「love」や「I
love」「love you」にならない。
さすがに私も英語で主語を省くことはあまり無かった
が、よく友人や
英語の先生に「誰に?」「それって何?」「何を?」など、目的語を省いたばかりに会話が
成立せず、質問されたものであった。英語で物事を考えることは、イコール科学論文を書くための良いトレーニングにもなるということに気づいた。
さて、小川先生は渡米して9年だそうだ。9年前という
と、私が米国
留学した時期と一致する。小川先生と比較し、自分は2年間の留学の後、ヌクヌクと日本のあいまい社会で時を過ごしてしまったと、痛烈に感じた。
インプラント治療に対し、実にロジティックに研究をさ
れ、それを形
にしていく小川先生の研究姿勢に大変感銘を受けた。
本日は、3iがバックアップしてのセミナーだったの
で、コマーシャ
ルの部分もあったと思うが、それを差し引いても、勉強になった。
まずは、インプラント周囲組織、特に骨の解明である。
凡人は言われ
ていることや直感的に感じることを盲目的に信じて疑わないものであるが、小川先生はそれを疑るところから始めた。
一般的に、インプラント(フィクスチャー)表面を様々
な手法により
粗面構造とし、良好なオッセオインテグレーションを得ることが出来るということは知られ
ているが、そのことを徹底的に検証した研究は少ない。そのような状況の中で小川先生は、酸エッチングによりインプラント表層が粗面になると周囲にできる骨
が、硬く、剥がれ難い骨になることを実験的に証明した。
特に、酸エッチングによる粗面構造周囲の骨に発現する
遺伝子を検出
することにより、そのことを証明したことは、まさにインプラント治療にエビデンスを加えたといっても良いであろう。
実は数年前、商用誌であるクインテッセンスの原稿を依
頼されたこと
がある。その原稿依頼は、小川先生の研究論文で、「ラット大腿骨に埋め込まれた酸エッチ
ングチタン表面上での遺伝子発現について」というような題の和訳とそれに対するコメントであった。当時、浅学な私は、色々な先生に助言を仰ぎながら小川先
生の論文を訳し、理解しようとしたがとうとう分からず仕舞いであった。中途半端な訳文しか出来ず、依頼をしてくださった方々に大変申し訳ないことをしたと
思う。
さて、それよりもエキサイティングな内容が、「スー
パーオッセオイ
ンテグレーション:Superosseointegration」なる概念である。
2009年12月に3i社から、全く新しい表面構造の
インプラント
が出るそうだが、その表面構造についてのサマリーの提示があった。
まずは、光活性により、骨接触率100%を得ることが
出来る表面構
造のインプラントが出来つつあるとのことであった。通常のインプラントは50-70%程
度の骨接触率であるが、紫外線照射により活性化されたこのインプラントは実に骨接触率が100%近い数値を得ることが出来るということだ。これを、小川先
生は従来のオッセオインテグレーションを超えるものなので、スーパーオッセオインテグレーションと呼んでいる。
また、ナノテクノロジーにより、200-300nmの
微細なビーズ
をちりばめたような酸エッチング表層を作ることが出来たそうだ。酸エッチングによりチタ
ン表面に、約1μmの微細構造を作ることが出来るが、小川先生曰く、骨芽細胞にとってちょうど良い大きさの凹凸になっているそうだ。このちょうど良い
1μmの凹凸を維持しつつ、200-300nmの小さな突起を更につけることにより、天然の骨表面に酷似させることが出来る。実際SEM(電子顕微鏡)像
の提示があったが、そっくりであった。
このような2つの技術単独かもしくは両者をあわせた表
面構造のイン
プラントが、来年の年末には市場に出てくるというのはとてもエキサイティングなことで、しかもそれを開発したのは日本人であるということは大変喜ばしい限
りである。
この第3世代の表面構造は、完璧なオッセオインテグ
レーションを2
週間ぐらいで得ることが出来そうだとのことで、インプラント治療の予知性は更に向上することであろう。登場が非常に楽しみである。
船登先生の講演
内容について
は「その2」に続く・・・・
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